
10年ほど前、健康番組で注目された納豆を使ったダイエット。
結局、その番組が検証結果や専門家の発言をねつ造していたことがわかり、ブームも収束していきました。
しかし現在、インターネット上で、「夕食の約30分前に納豆を食べる」というダイエット方法が注目されているようです。
そのほか、食物繊維・ナットウキナーゼ・大豆ペプチド・大豆サポニン・レシチンといった成分がダイエットに有効であるとする説が多くみられました。
実際に納豆や、これらの栄養成分のはたらきはダイエットに有効なのでしょうか?
Contents
納豆を食べて食事量が減れば、ダイエットとして成立しそうだけど…
体脂肪1㎏=7200kcalに相当。
体脂肪を減らすには、消費エネルギーが摂取エネルギーを上回る必要があります。
体脂肪1㎏に相当するエネルギーは7200kcal。
1日当たり240kcalの消費を多くすることで、ひと月で1㎏の体脂肪の減少が期待できます。
体脂肪を減らすダイエットの基本について解説した記事はこちら |
ダイエットに向いている?納豆の栄養データ
納豆 | 白ごはん | たまご | 皮つき鶏もも肉 | |
エネルギー | 200kcal | 168kcal | 151kcal | 204kcal |
脂質 | 10.0g | 0.3g | 10.3g | 14.2g |
たんぱく質 | 16.5g | 2.5g | 12.3g | 16.6g |
炭水化物 | 12.1g | 37.1g | 0.3g | 0g |
うち食物繊維 | 6.7g | 0.3g | 0g | 0g |
*100gあたり、文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より作成
※横スクロールで表全体の確認が可能です。
ダイエットの視点から見ると、納豆の魅力は肉類に比べると脂質が少なく低カロリーで、食物繊維が多い点。
とはいえ、同じ重さのたまごよりエネルギーが高いのも注意が必要です。
いつもの食事に納豆をプラスして1か月で1㎏やせるには…
「食事の前に納豆をひとパック食べる」という方法について考えていきましょう。
食事制限も運動も特にせずにやせるためには、納豆をプラスしたうえでそのほかの食事量が減り、トータルで摂取エネルギー全体を減らすことが求められます。
■納豆を食べて食事量を減らす食事モデル
ハンバーグを中心とした食事を例に考えてみましょう。
納豆をプラスしながらひと月で1㎏ペースで体脂肪(=7200kcal)を減らすには、この例では
増えるエネルギー…納豆1パック(100kcalプラス)
減らすエネルギー…ご飯お茶碗1/2杯、ハンバーグ75gを減らす(340kcalのカット)
といった食事量の調整をする必要があります。(トータル-240kcal)
食前に納豆を食べればある程度の食事量が自然に減ることが予想できますが、納豆はそれほどかさの張る食材ではありません。
1パック50gの納豆によってごはん100gとハンバーグ75gと同じ満腹感を得られれば良いのですが、やはり多少の我慢が必要になってくると考えられます。
納豆を食べれば満腹まで食べてもやせられるといったことは期待できません。
「納豆を食べる分とカロリーカットしたい分をあわせてメインのおかずを半分に、ごはんもいつもは大盛りだから半分にしよう」
といった感じで、食事量をあらかじめ決めておけば食べ過ぎを防ぎやすいでしょう。
ナットウキナーゼや大豆ペプチド…納豆の機能性成分でやせられる?
食物繊維と納豆菌で便秘の解消はできる可能性がある
納豆に豊富に含まれている食物繊維は、腸管内で便のカサを増やし、便通を促す働きが知られています。
また、納豆菌は腸管内で善玉菌のはたらきを助けるといわれ、人での効果ははっきりしていませんが、腸内環境を整えるはたらきが期待されています。
便秘がちの人は便秘を解消することによって体重の減少やお腹周りがすっきり見えることがあるため、ダイエット中にはうれしい変化のひとつといえそうです。
ただし体脂肪が減っているわけではないため、厳密にはやせたとはいいにくく、体全体がほっそりするような効果は見込めません。
ナットウキナーゼにやせる効果は「ない」
試験管での実験ではありますが、ナットウキナーゼには血栓を溶かす効果があることが報告されています。
「ナットウキナーゼによって血流が良くなると基礎代謝が上がって消費エネルギーが増えて痩せる」とする情報もしばしば見受けられますが、「ナットウキナーゼ」には、特にダイエットや基礎代謝にかかわる働きはありません。
ナットウキナーゼを配合したサプリメントなども販売されていますが、ダイエット効果はないものと考えましょう。
大豆ペプチドは基礎代謝を高めるもののその効果はわずか
大豆に含まれる大豆ペプチドという成分には食事後のエネルギー消費を増加させる効果があることが報告されており、その効果によって消費エネルギーを増やして痩せようという方法です。
食後のエネルギー消費量を高める効果を認める研究報告はあるものの、体脂肪量の変化が数値に現れるほどの効果は期待できないといえます。
(基礎食に比べて3時間で14.4kcalの消費増を1日1回=1日14.4kcal=1㎏の体脂肪を落とすまで500日かかる計算)
また、この実験と同等の成果を出すためには、1日の摂取たんぱくのうち少なくとも15g分を納豆に置き換えることになります。
納豆に換算すると90g、1日およそ2パックの摂取を500日続けてやっと1㎏の体脂肪を減らす効果が得られるかもしれない、という程度です。
体脂肪の減少を期待するにはあまりにもささやかな効果であるうえ、いつもの食事に加えて2パックの納豆を食事に加えるだけでは摂取エネルギー(カロリー)が過剰になってしまいます。
大豆サポニン・レシチンが肥満に効果があるというデータはない
大豆に含まれるサポニンやレシチンといった成分が脂肪を燃焼させたり肝臓での脂質の代謝を高めたりする効果があることが期待されています。
しかし、このような研究結果は主に血中脂質の改善など、生活習慣病の予防において注目されているもの。
人を対象にした有効性はいまだ未知数なこともあり、現状では日常的に大豆製品をとることで㎏単位での体脂肪の減少効果があるとは言いにくいと考えられます。
まとめ:納豆は健康的な食生活のなかの食材のひとつとして活用するのが◎
ここまでのまとめ
・納豆を食べてやせたいのなら、それ以上に摂取エネルギーをカットする必要がある
・便秘解消に役立つ可能性はありそう
・ナットウキナーゼや大豆ペプチドのはたらきでやせるのは難しい
・納豆の食べ過ぎも要注意。たくさん食べれば効果が出るというものでもない
納豆は「カロリー控えめなたんぱく質食品」としての立ち位置がベスト
インターネット上のダイエット法が唱えるような、食前に食べて食事量を抑える、食物繊維の整腸作用に期待するという点では、納豆よりもエネルギーが低く食物繊維も同程度含まれる野菜やきのこ、海藻、こんにゃくなどのほうが効果的と考えています。
納豆自体は食物繊維も豊富でたんぱく質に富む良い食品ですので、高脂質で高カロリーになりがちな肉のおかずに一部置き換えることで、カロリーカットをしつつたんぱく質や食物繊維を摂取することができると考えます。
ダイエットは生活全体を見直す必要がある。ひとつの食品に頼るのは望み薄
世の中には「〇〇するだけダイエット」というものがたくさんありますが、ダイエットの基本は摂取エネルギーを抑えて消費エネルギーを増やすことです。
納豆を食べる「だけ」で痩せる可能性は低いといえます。
食品に含まれる栄養成分の効果も魅力的ではありますが、毎日の食生活、運動習慣を改善していくことが最も効果的な方法といえるのではないでしょうか。
参考文献 吉田勉 監修:「わかりやすい食品機能栄養学」.三共出版,2010. 文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報(レシチン、大豆サポニン、ナットウについて) 小松龍史,小松恵子,山岸稔(1992):大豆ペプチド摂取の食事誘導産熱に及ぼす影響.大豆たん白質栄養研究会会誌vol.13(1992) Probioticとしての納豆菌の作用 ―腸内菌叢と腸管免疫システムに対する作 用― 細井 知弘. 日本醸造協会誌, 98巻 12号(2003) |