
生活習慣病予防やダイエット志向の高まりから、避けられがちな栄養素の脂質。
しかし、本来は体にとって大事な働きをもつもの。とりすぎには注意が必要ですが、少なければいいというものではありません。
もっと取りたい油と取りすぎには気を付けたい油、不安視されているトランス脂肪酸は何がよくないのでしょうか?
実は重要な脂質のはたらき、かしこい取り方を解説します。
Contents
脂質とは?
3大栄養素のひとつ
まず、脂質とは、糖質、タンパク質と並ぶ三大栄養素の一つです。
食品に含まれるのは、中性脂肪(トリアシルグリセロール、トリグリセリド)とコレステロールがあります。
重さあたりのエネルギー(カロリー)が高い
脂質のエネルギー(カロリー)は1gあたり9kcal。
糖質・タンパク質と比較して倍以上のエネルギー(カロリー)を持っているため、摂取量によっては肥満などのリスクが高いといえるでしょう。
とはいえ、体にとって悪いものでとらないほうがいいのかといえば、決してそうではありません。
脂質のはたらき
脂質は3大栄養素の一つ。
摂りすぎは肥満や生活習慣病につながりますが、体内では大切な役割を持っているので、食事から必ず取り入れる必要があります。
脂質の主な働きは、
・空腹時のエネルギー源として貯蔵される
・細胞膜の構成成分となる
・ホルモンの原料となる
・栄養素の消化吸収に必要な胆汁酸の原料となる
・脂溶性ビタミンなどの水に溶けにくい成分を吸収しやすくする
・脂肪組織となり体温の維持、内臓を保護する
などがあり、どれも人の体にとって重要なものです。
現代の一般的な食生活では不足することは考えにくいですが、ダイエットなどをしていて極度に脂質の摂取を控えていると、不足による健康への影響が出ることも考えられます。
不足すると、とりすぎると、どうなる?
とりすぎは肥満や生活習慣病の原因
脂質の摂りすぎによる健康への影響は広く知られているものも多いですね。
・エネルギー過多により皮下脂肪が過剰に蓄積(肥満)
・血液中の脂質の量が増え、血管系の疾患リスクが増加する
いわゆる、肥満体型や生活習慣病という状態になりやすくなるといえます。
不足しても悪影響がある
反対に、ダイエットや食事内容の偏りによって脂質が不足すると、
・エネルギー不足になって疲れやすくなる
・皮膚や血管が弱くなる
・細胞のバリア機能が下がる
・ホルモンバランスが崩れて体調不良が起こりやすくなる
・脂溶性のビタミンなどが吸収されにくくなり、ビタミン不足の状態になる
・皮下脂肪が減少して体が冷えやすくなる
・女性では月経トラブルが起こることもある
といったことが起こりやすくなります。
脂質は摂りすぎても少なすぎても健康に影響が出るものですので、適量をとるように心がけるのが大事です。
いい油・悪い油があるってほんとう?
油にも種類がある
油の摂取は必要だとは言っても、油なら何でもいいというわけではありません。
食事や健康、美容の分野ではオレイン酸や不飽和脂肪酸、オメガ3脂肪酸などの単語を見かけたこともあるのではないでしょうか?
これらはまとめて「脂肪酸」とよばれるもので、脂質を構成する成分の種類を指しています。
脂肪酸にはさまざまな種類があり、その脂肪酸の種類によっていろいろな影響を及ぼします。
「いい油」「悪い油」といった表現があるのは、食材によって脂肪酸の種類や割合が異なるためです。
植物の油だから、肉の油だから、魚の油だからというのは厳密には誤りです。
それぞれの食材の油を構成する脂肪酸ごとに、適量の摂取でいい影響を及ぼしたり、不足したり過剰になることで悪い影響を及ぼすはたらきがあります。
脂肪酸の種類と特徴
脂肪酸を2つに分けると、飽和脂肪酸と、不飽和脂肪酸に分けられます。
飽和脂肪酸
多くは肉類やバターなどの動物性の脂に含まれていますが、ココナッツオイルやピーナッツオイルも飽和脂肪酸を含んでいます。
常温では固体になりやすいのが特徴です。
血中のコレステロールを増やし、脂質異常症などの生活習慣病の原因にもなるので、取りすぎに注意が必要です。
しばしば動物性油脂が「悪い油」と呼ばれてしまうのはこのためと考えられます。
不飽和脂肪酸
多くは植物や魚に多く含まれる脂肪酸で、常温では液体で存在します。
不飽和脂肪酸はさらに「一価不飽和脂肪酸」「多価不飽和脂肪酸」に分けられます。
多価不飽和脂肪酸は、さらにn-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸に分けられます。
一価不飽和脂肪酸
オレイン酸など。
オリーブオイルやキャノーラ油に含まれます。
高不飽和脂肪酸よりも酸化されにくいために、加熱調理をしても劣化しにくいのが特徴です。
悪玉(LDL)コレステロールを増やしにくく、善玉(HDL)コレステロールを減らしにくいという特徴があります。
飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸と比べて特徴は少ないものの、健康上のリスクにつながりにくい油といえそうです。
多価不飽和脂肪酸(n-6系脂肪酸)
リノール酸、アラキドン酸など。
リノール酸は多くの植物油に、アラキドン酸は卵黄などに含まれます。
血中のLDLコレステロールを減らす働きを持ちますが、取りすぎるとHDLコレステロールも減らしてしまい、またアレルギーの症状を起こしやすくなってしまいます。
多価不飽和脂肪酸(n-3系脂肪酸)
エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、α-リノレン酸など。
EPAやDHAはサバなどの青魚に、α-リノレン酸は大豆やエゴマ油に含まれます。
血中のLDLコレステロールを減らしてHDLコレステロールを増やす作用があります。
脂肪酸の種類とダイエット
ダイエットの話題において、「○○は不飽和脂肪酸で質のいい油だから太らない」といったような表現もありますが、これは誤りです。
脂肪酸の種類によって影響されるのは主に血中LDLコレステロールなどであり、体脂肪の増減とは異なりますので注意が必要です。
ただし、生活習慣病予防のために飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸にシフトすることは大いに意味があります。
飽和脂肪酸か、不飽和脂肪酸か、にかかわらず、脂質のエネルギー(カロリー)は1gあたり9kcalであることは覚えておきたいところです。
一方、脂肪酸の中に「中鎖脂肪酸」「MCTオイル」というものがあり、エネルギーとして消費されやすく、脂肪として蓄積しにくい油があります。
たしかに、中鎖脂肪酸そのものは体脂肪にはなりにくい性質を持ちますが、消費カロリーと比較して取りすぎていれば、体脂肪として蓄積されることが分かっています。
また、中鎖脂肪酸以外の油脂も消費されやすくしたり、すでに蓄積された体脂肪を減らしたりといった性質のものではないので、「とればとるほど痩せる油」というわけではありません。
トランス脂肪酸って…?
近年ではトランス脂肪酸による健康への影響が心配されています。
トランス脂肪酸は植物油などの不飽和脂肪酸を加工してマーガリンなどを作る際に生成する脂肪酸です。
トランス脂肪酸はすべて人工的なものかといえばそうではなく、牛肉や乳脂肪にもわずかながら含まれています。
(ただし、自然に存在するトランス脂肪酸に関しては疾病リスクにはならないことが報告されています)
トランス脂肪酸の摂取量が増えると、血中のコレステロールを増加させ、HDLコレステロールは減らしてしまうはたらきを持ち、心血管疾患のリスクを高めるものとして影響が懸念されています。
脂質の多い食事を多くとる欧米では、トランス脂肪酸の摂取量が多く(日本人の約20倍)、トランス脂肪酸の健康へのリスクが問題視されています。
日本人の食生活では欧米と比較して脂質の摂取量も少なく、普段の生活で摂取するトランス脂肪酸の量では健康に影響が出る可能性は少ないといわれています。
あまり神経質になる必要はありませんが、マーガリンやショートニングなどの加工植物油脂は、あまり大量に摂取しないようにだけ気を付けるとよいでしょう。
「あぶら」はどのくらい食べればいい?
カロリーの2~3割を脂質から
厚生労働省が定める日本人の食事摂取基準(2020年版)では、脂質の摂取は摂取カロリー全体の20~30%の範囲に収めるのがよいとされています。
一般的な活動量の20代の女性では1日に約2000kcalを必要とするとされていますので、脂質はそのうち400~600kcal、重さにすると44~67gの脂質をとるのが望ましいとされています。
お肉や魚などの食材に含まれる脂質と、調理に使う油脂をあわせて適正量に収められると理想的です。
体内で作れない必須脂肪酸は適量を
また、脂質の種類の中で、必ず摂取する必要があるものとして、n-6系のリノール酸とn-3系のα-リノレン酸に関して摂取基準が設けられています。
18~49歳の女性では、1日あたりn-6系脂肪酸では8g程度、n-3系脂肪酸では1.6g程度を摂取するのが望ましいとされています。
飽和脂肪酸は少なめに抑える
さらに、飽和脂肪酸については摂りすぎを防ぐために上限の目標が定められており、摂取エネルギーの7%以下、一般的な活動量の20代の女性では15g以下になるようにすると理想的です。
意外とたくさん?脂質摂取のモデル献立
今回は、この条件を満たすような1日の献立を紹介します。
食事の中で特に脂質を多く含む食材は抜粋して記載しています。
食事のメニュー | 脂質の含有量 | |
朝食 | バタートースト (食パン6枚切り1枚60g) (バター6g) |
7.4g |
コーヒー砂糖入り | 0g | |
バナナ1本100g | 0.2g | |
昼食 | キャベツとアサリのパスタ (オリーブ油6g) (その他) |
8.2g (6.0g) (2.2g) |
トマトと玉ねぎのサラダ (フレンチドレッシング10g) (その他) |
4.3g (4.2g) (0.1g) |
|
アイスティー | 0g | |
野菜のコンソメスープ | 0.3g | |
おやつ | アーモンドチョコ3粒13g | 5.3g |
夕食 | ごはん1膳160g | 0.5g |
わかめの味噌汁1杯 | 0.7g | |
鮭のスタミナソテー 鮭100g ごま油6g その他 |
10.1g (4.1g) (6.0g) (0g) |
|
ひじきの煮物 サラダ油2g 油揚げ1/3枚10g その他 |
4.3g (2.0g) (2.3g) (0g) |
|
脂質合計 | 42.8g | |
合計カロリー | 1622kcal | |
脂質エネルギー比率(目標量20~30%) | 23.7% | |
飽和脂肪酸 エネルギー比(目標量7%以下) | 3.6% | |
n-3系脂肪酸(目安量1.6g) | 1.87g | |
n-6系脂肪酸(目安量8g) | 8.10g |
※横スクロールで表全体の確認が可能です。
ダイエット中の方にも参考になるように低めのカロリー設定ですが、「油って意外と食べていいんだな」と感じませんでしたか?
和・洋・中を上手に組み合わせて
毎食、調理中に使う油は小さじ1・5杯(5~6g)くらいは控える必要はありません。
脂質の多い食事に偏らないよう、1日~1週間で様々な料理を組み合わせられるとバランスがとりやすくなります。
中華や洋食に比較すると、和食は脂質が少なくしやすいところが魅力ですね。
脂質の多い食品は食べ方に注意
少量なら脂質の高いチョコレートなどのお菓子も問題ありません。
スナック菓子は1袋を一人で食べきらないように注意しましょう!
バラ肉やベーコンなどの脂身の多い肉類や、サバやサンマなどの魚類を食べるときは食材の脂を活かして、サラダ油などを使わない調理法を選ぶと油のとりすぎを防げます。
もし、揚げ物を食べるならその前後の食事はノンオイルのメニューを選ぶとバランスがとりやすいですね。
いろいろな食品を食べるのが大事
脂肪酸の比率まで管理することは日常生活ではほぼ不可能です。
現代の食生活では、飽和脂肪酸をとりすぎやすい傾向にあるようです。
飽和脂肪酸は比較して肉類や乳製品に多く、n-3系脂肪酸は魚類に多いことからも、
いつもの食生活で魚を食べる機会が少ないという人は、2日に1回でも魚をメインとしたおかずを食べるようにすると脂質のバランスが整いやすいでしょう。
生活習慣病の予防のためにとりたい脂質が豊富な食品
n-3系脂肪酸は植物油、魚に多い
n-3系脂肪酸は植物油のほか、サンマやブリ、サバなどの脂の多い魚に豊富に含まれています。
とはいえ、n-3系脂肪酸の必要量を確保するために毎日魚を食べなければいけないというわけではありません。
通常、私たち日本人の食生活ではサラダ油のような植物油からn-3系脂肪酸の必要量をとっている場合が多く、魚を食べないと取り切れない、ということはないためです。
ただ、魚の主菜(メインのおかず)を食べる頻度が増えると、相対的に飽和脂肪酸の割合が多い肉の主菜の頻度が減るため、生活習慣病予防には効果的といえそうです。
サンマは70g程度で1日の目安量を満たすほど。
サバやブリも100g以内の摂取で十分な量です。
酸化しやすい脂なので、なるべく新鮮なものを食べましょう。
オリーブオイルは悪影響が少ない油、ラードやバターに代えて使うとよい
また、一価不飽和脂肪酸を多く含むオリーブオイルも体に悪影響を与えにくいため、飽和脂肪酸の多い肉類や乳製品の脂に代わって取り入れたい油です。
植物油由来のサラダ油をオリーブオイルに変える、というのはあまり違いがありませんので、お好みのほうを使うのがよいでしょう。
オリーブオイルについて詳しく書いた記事もありますので参考にしてみて下さいね。
→オリーブオイルの栄養成分について。ダイエット効果もあるの?
良質な油が体にいいとはいえ、取りすぎには注意して下さいね。
脂質と組み合わせたい栄養素
脂質を体内で効果的に利用するためには、一緒に摂取するほかの成分も重要です。
食品には、脂質の代謝にかかわるビタミン2や、脂質の吸収を妨げる食物繊維などがあります。
ビタミンB2
脂質をエネルギーとして利用するのに必要なビタミンで、不足すると脂質の代謝が滞ってしまいます。レバーや納豆、卵などに含まれています。
脂質を優先的に消費したいダイエット中には不足しないようにしたい栄養素の一つです。
ビタミンについて詳しく解説した記事も参考にしてみてくださいね。
食物繊維
食物繊維の中でも、果物や野菜、海藻、こんにゃくなどに含まれる水溶性食物繊維は腸の中でゲルを形成し、脂質の消化吸収を妨げる働きがあります。
摂りすぎが気になる飽和脂肪酸を多く含む肉料理などには、たっぷりの野菜などと一緒に食べると吸収を抑えてくれます。
どの栄養素も適量が大事
高カロリーゆえに敬遠されがちな脂質ですが、体にとって必要なものです。
摂りすぎには気を付けつつ、適量を取り入れられるように気を付けましょう。
参考文献 吉田勉 監修:「わかりやすい食品機能栄養学」.三共出版,2010. 文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書 |