グルテンフリーは健康的、の誤解。本当に必要な人はまず病院へ

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小麦製品を制限するグルテンフリー

有名アスリートや芸能人が実践しているとして、SNSなどでも話題の「グルテンフリー」。

美容や健康にいい、ダイエットに効果的といわれたり、おしゃれな健康食のイメージも強いようです。
グルテンフリーとはどのような食事法なのでしょうか?
また、グルテンフリーは私たちが取り入れたほうがいいものなのでしょうか?

グルテンフリーって?

グルテンフリーとは、小麦製品などのグルテンを含む食品をとらないようにする食事法のことです。

グルテンが体の様々な不調をもたらす原因であるという考え方から、グルテンを含む小麦やその他の食品の摂取を極力減らします。

しかし、小麦を使った食品はパン、パスタやうどんなどの麺類、調味料など多種にわたるため、グルテンフリーの食事では食生活が大きく制限を受けるという面もあります。

グルテンフリーの食事法は、実践すべき食事法なのか、調べていきましょう。

グルテンとは?

グルテンフリーの食事で避けるべきものとして扱われる「グルテン」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

小麦に含まれるたんぱく質の一種

グルテンは小麦に含まれる主要な「たんぱく質」です。

小麦製品の製造過程で、小麦粉に水を加えてよくこねることで小麦のたんぱく質である「グルテニン」と「グリアジン」が複合体を形成することによってできるのがグルテンです。

パンやうどんの製造では小麦粉生地をよくこねて粘りと弾力のある生地をつくりますが、この粘りと弾力はグルテンによるものです。

強力粉に多く、薄力粉には少ない

小麦粉はたんぱく質の含有量が多い順に強力粉、中力粉、薄力粉に分類されます。

いずれにもグルテン(のもとになるグリアジンとグルテニン)は含まれますが、たんぱく質含有量の多い強力粉には比較的多く、薄力粉には比較的少ないといえます。

ほかの穀物にグルテンはあるの?

小麦に近い穀物としては、麦の仲間のオオムギ、ライムギ、エンバク(オーツ麦)があります。
いずれもグルテンそのものは形成しませんが、グルテンのもととなるグリアジンと似たたんぱく質を含むため、グルテンフリーの食事では避けられる食品です。

そのほか、米やソバなどの穀物はグルテンや類似したたんぱく質は持たないため、グルテンフリーの食事では食べることが可能なものになります。

小麦製品を避ける、というと糖質制限に近いようにも思えますが、お米などが食べられるという点では大きく異なります。

グルテンは体に悪いの?

グルテンフリー

グルテンは主に小麦に含まれるたんぱく質ですが、なぜグルテンを食べないようにするグルテンフリーの食事が注目されるのでしょうか?

グルテンフリーで紹介される「グルテンのマイナス面」

グルテンフリーの食事を紹介、推薦する書籍やウェブサイトでは、以下のような「グルテンによってもたらされる健康へのネガティブな影響」があげられています。

1. グルテンや小麦には中毒性があり、依存症になる
2. グルテンが腸の消化吸収を妨げ、腸内環境を悪化させる

そして、グルテンフリーの食事を行うことで

腸内環境が整い、体調がよくなる
・体重が減り、肌がきれいになる

といったいい影響が表れるとしていますが、紹介する媒体によっても内容はバラバラで、実際にそのような効果があるのか、一貫したものはないようです。

グルテンや小麦製品にそんな作用があるの?

実際に、小麦製品を食べることによってこのような悪影響があるのでしょうか。

1. グルテンや小麦には中毒性があり、依存症になる?

かつて、小麦のグルテンや牛乳のたんぱく質(カゼイン)が、脳内で麻薬のような物質と似た働きをするのではないか?といわれていたことがあります。

人の体が作り出す神経伝達物質のひとつに、脳内麻薬とも言われる「エンドルフィン」が存在しますが、グルテンやカゼインにこの物質と似た構造があったことから、このような仮説が立てられました。
しかし、グルテンやカゼインについて研究がすすめられたものの、麻薬のような機能があることは実証されませんでした。

このような経緯もあって小麦製品には中毒性がある、といったような説がいまだに信じられているようですが、現状では「小麦やグルテンには中毒性や依存性はない」というのが通説です。

2. グルテンが腸の消化吸収を妨げ、腸内環境を悪化させる

消化吸収機能に問題のない大部分の人において、小麦のグルテンが消化吸収できず、さらに腸内環境を悪化させるということは考えにくいといわれています。

まれに、遺伝的にグルテンによって腸管の免疫が過剰に反応して腸などに炎症を起こす疾患(セリアック病)を持った人が存在しますが、
その原因には遺伝的な要素が大きく、グルテンを食べ続けることが原因で起こるものではありません。

この疾患については、次に詳しく解説します。

グルテンが体に合わなくなる「疾患」とは?

グルテンを食べると体に異常が起こる疾患は存在します。
「セリアック病」といい、白人種に多く、日本人を含む有色人種にはまれな疾患といわれています。
2006年に実施された調査*)では、日本人の罹患率は0.7%だったそうです。
*)中澤 英之, 牧島 秀樹, 石田 文宏. 本邦におけるセリアック病の頻度に関する検討 アレルギー, 55巻 8-9号 p.1116 (2006)

人の体では、小腸の内側にブラシのように存在する絨毛から、様々な栄養素を吸収しています。
セリアック病では小腸でグルテンが「排除すべき異物」として認識されてしまい、体内の免疫細胞がグルテンを排除しようとするときに小腸の細胞まで攻撃してしまうことによって、下痢や腹痛、栄養素の吸収障害、栄養素の欠乏による様々な影響があらわれます。

グルテンフリーが注目されるきっかけとなった有名アスリートもこの疾患をもっていたそうです。

そのほか、グルテンやグリアジンに限らず、小麦のたんぱく質のいずれかに対して免疫が過剰に働いてしまう「小麦アレルギー」なども、小麦製品を取り除いた食事を心がける必要があります。

もともとの「グルテンフリー」とは、このような疾患によって小麦製品が食べられない人のための食事法なのです。

グルテンフリーを実践すべき?

グルテンを含まない食事は健康的?

グルテンフリーはダイエット法や健康法ではない

日本では「グルテンフリー」というと美容や健康のために行っているという人も少なくありません。

グルテンフリーの食事法は英語で「グルテンフリー・ダイエット」といいます。
このときの「ダイエット」とは、日本で一般的に用いられる「痩身・減量」という意味ではなく、「疾患に対処するための食事法」という意味です。

この言葉を体重減少のための「ダイエット」と誤解したことで「グルテンフリーはダイエット法である」といった誤解が生まれたのかもしれません。

また、グルテンをとらない食事を行うことで、より健康になれる、体調不良が解消されるというものでもありません。
セリアック病などの症状のひとつに下痢や倦怠感などはありますが、セリアック病でない人の下痢や倦怠感は小麦グルテンが原因とは限らないからです。

自己診断は避けるべき

たとえば今現在、自分の体に不調があったとしても、それを小麦やグルテンが原因だと決めつけてしまうのは避けるべきことです。

病気の原因になるのはグルテンだけではありません。

むやみにグルテンフリーの食事を行うことで、食事内容が偏ってしまったり、ほんとうの原因を知るまでの時間が長くなったりすることも考えられます。

また、ほんとうにセリアック病だったとしても、自己流のグルテンフリー食を実施した後では、医療機関での確定診断がしにくくなってしまうという面もあります。

気になる不調があるのであれば、医療機関に相談するのがベストです。
その結果によっては、グルテンフリーの食事を選択することもあるかもしれません。

特定の食べ物を過剰に怖がることはやめよう

グルテンフリーを勧める媒体では、「小麦を食べるとこんなに怖いことが起こるかも」といったような論調もみられますが、今現在、セリアック病のような特定の疾患を持つ人以外がグルテンフリーの食事を選択することに、あまり意義はありません。

疾患などの理由なく特定の食品を避ける(またはそればかり食べる)ことは、食事の幅を狭め、摂取栄養素の偏りや生活習慣病など、また別の問題をもたらすことがあります。

グルテンに限らず、「糖質は体に悪い」「砂糖は体に悪い」「牛乳は体に悪い」「肉は体に悪い」といったような、特定の食べ物を避けるような食事法は真に受けないほうがいいでしょう。

グルテンフリーの食材が市場に広く出回るようになったこと自体は、小麦アレルギーやセリアック病を持つ人の食べられる食品が増えるという点でとても喜ばしいことです。

一方で、今現在、小麦に対して何のトラブルも抱えていない人までもが小麦やグルテンを怖がり、食事の幅を狭めてしまうのは、とてももったいないことだと考えます。

参考文献

MSDマニュアルプロフェッショナル版:「セリアック病」

星野 浩子、田所 忠弘.セリアック病とグルテンフリー食品 東京聖栄大学紀要,第6号 2014.

中澤 英之, 牧島 秀樹, 石田 文宏. 本邦におけるセリアック病の頻度に関する検討 アレルギー, 55巻 8-9号 p.1116 (2006)