腎臓病では血中のカリウム値が上がることがあり、健康状態の維持のためにカリウム値を下げる必要が出てくることがあります。
カリウム値を下げるためには、食事を工夫し、食事からのカリウム摂取量を減らす必要があります。
この記事では、腎臓病でカリウム制限が必要な方に向けて、カリウムを下げる必要性とカリウムを下げるための食事のポイント・摂取を控えるべき食べ物・飲み物の具体例を紹介します。
カリウムを下げて健康状態を維持するために、ぜひ活用してくださいね。
Contents
カリウムとは?
カリウムはミネラルに属する栄養素のひとつです。
体内の水分やミネラルのバランス調整の働きを持つほか、筋肉や神経伝達が正常に保つ働きがあります。
カリウムは健康維持のために適量の摂取が必要な「必須栄養素」のひとつですが、腎臓病の方にとっては、摂取量に注意する必要がある場合もあります。
腎臓病とカリウムの関係
腎臓病、特に慢性腎臓病(CKD)とは腎臓の機能が徐々に失われていく疾患です。
具体的には、進行に伴い、体内の老廃物を排出する働き、体内の水分量をコントロールする働きが損なわれることが知られています。
病状がさらに進行すると、血液透析などで腎臓の働きを補う必要が出てくる場合もあります。そのほか、貧血、骨粗しょう症、心血管疾患などのリスクを高めることも知られています。
腎臓病ではその進行度合いに応じて、たんぱく質や食塩などの摂取栄養素の制限が行われますが、カリウムもそのひとつで、病状に応じて制限される栄養素です。
腎臓病でカリウムの制限が必要になる理由
腎臓病でカリウムの制限が必要になるのは、腎臓の機能低下に伴い、「高カリウム血症」が起こりやすくなるためです。
カリウムそのものは腎機能に悪影響を及ぼすものではありませんが、体内のカリウムを尿から排出する働きが低下すると血中のカリウム濃度が上がりすぎてしまい、不整脈・心停止の原因になります。
特に心停止は命にかかわることから、血中カリウム濃度を適正範囲にとどめるために食事からのカリウム摂取を制限する必要があります。
カリウム制限が必要な人とは
カリウム制限は腎臓病の人すべてに必要なわけではありません。
腎臓の機能が低下し、血中のカリウム濃度が上昇して高カリウム血症(5.5mEq/L)がみられる場合のみ、医師の指導のもと制限が必要になります。
カリウム制限の度合いも病状によって異なり、ステージごとのおおよその目安は以下のようになります。
CKDステージ | カリウム制限の目安(1日あたり) |
ステージG1 | なし |
ステージG2 | なし |
ステージG3a | なし |
ステージG3b | 2000㎎以下(高カリウム血症がみられる場合) |
ステージG4 | 1500㎎以下(高カリウム血症がみられる場合) |
ステージG5 | 1500㎎以下(高カリウム血症がみられる場合) |
また、透析を行っている場合にはまた別の基準があり、以下の制限が目安となります。
透析の種類 | カリウム制限の目安 |
血液透析(週3回) | 2000㎎以下 |
腹膜透析 |
制限なし(高カリウム血症がある場合には血液透析と同様に制限) |
いずれのステージの場合も具体的な制限内容は血中カリウム値に応じて決まります。
あくまで一例として参考にしてくださいね。
カリウム制限で気を付けるポイント
血中カリウム値を下げるには、食事から摂取するカリウムの量を減らす必要があります。
具体的には、以下のような方法に分けられます。
- カリウムの多い食品を減らす
- 調理で食材に含まれるカリウムを減らす
- 低カリウムの市販品を活用する
ここからは、カリウム値を下げるために注意すべき食べ物とカリウムを減らす調理法や市販品の活用について紹介していきます。
カリウムを下げるために注意すべき食べ物・飲み物7選
カリウムはさまざまな食品に幅広く含まれるミネラルです。
そのため、腎臓病に伴う高カリウム血症を避けるために気を付けるべき食品は多岐にわたっています。
- 野菜類
- 果物類
- 芋類
- 豆類
- 肉類、魚類
- 乳製品
- お茶、コーヒー、ジュース類
いずれの食品も「絶対に食べてはいけない」という訳ではなく、食事全体のカリウム摂取量に気を付けながら、適量を食べることが大切です。
それぞれの食品グループごとに、特にカリウム量に気を付けるべき食品の具体例を挙げながら紹介します。
野菜類
野菜類はカリウムを多く含む食品の代表格です。
野菜類の中でもカリウムを多く含むものには、以下のようなものが挙げられます。
■カリウムの多い野菜類(生・100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
ほうれんそう | 690㎎ |
芽キャベツ | 610㎎ |
えだまめ | 590㎎ |
モロヘイヤ | 530㎎ |
にら | 510㎎ |
小松菜 | 500㎎ |
リーフレタス | 490㎎ |
水菜 | 480㎎ |
ブロッコリー | 460㎎ |
れんこん | 440㎎ |
かぼちゃ | 430㎎ |
野菜類はカリウムが多い一方で、体に必要なビタミン類や食物繊維の摂取源になる食品であるため、カリウム摂取量を意識しつつ、適量をとることが必要です。
果物類
果物類は野菜類に比べるとカリウムの含有量は少なめですが、生で食べる機会が多いことからカリウムが減りにくく、摂取量に注意が必要です。
カリウムを多く含む果物には以下のようなものがあります。
■カリウムの多い果物類(生・100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
アボカド | 590㎎ |
バナナ | 360㎎ |
メロン | 350㎎ |
キウイフルーツ | 300㎎ |
また、果物加工品では、生のまま乾燥させたドライフルーツでは特に重さあたりのカリウム量が多いことに注意が必要です。
反対に、シロップ漬けの缶詰の果物は生の果物と比較してカリウム含有量が低くなっているため、果物を食べたいときの選択肢としておすすめです。
いも類
いも類もカリウムを多く含むものが多く、調理で失われにくい事から注意しましょう。
■カリウムの多いいも類(生・100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
さといも | 640㎎ |
やまといも | 590㎎ |
さつまいも | 480㎎ |
ながいも | 430㎎ |
じゃがいも | 420㎎ |
いも類の中でも、特に長芋について、「とろろ」など生で食べる場合には水やお湯にさらされないことでカリウムが減らないため、食べる量や頻度に注意するとよいでしょう。
豆類
豆類もカリウムを多く含む食品のひとつです。
種類によっては日常的に食べるという人も少なくないため、カリウム摂取量に影響しやすい食品といえます。
■カリウムの多い豆類(100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
大豆ミート(粒状大豆たんぱく) | 2400㎎ |
煎り大豆 | 2000㎎ |
きな粉 | 2000㎎ |
おからパウダー | 1300㎎ |
蒸し大豆 | 810㎎ |
ひきわり納豆 | 700㎎ |
納豆 | 690㎎ |
ゆであずき | 430㎎ |
生おから | 350㎎ |
豆類の中でも、乾燥品で食べるもの(煎り大豆、きな粉など)は少量でもカリウム摂取量を増やしやすいので、注意が必要です。
肉類、魚類
野菜類などの植物性食品だけでなく、肉類・魚類といった動物性の食品にもカリウムが含まれ、摂取量を増やす原因になります。
■カリウムの多い肉類(生・100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
生ハム | 470㎎ |
豚ヒレ | 430㎎ |
鶏ささみ | 410㎎ |
牛ヒレ肉 | 380㎎ |
豚モモ肉(脂身付き) | 350㎎ |
鶏むね肉(皮つき) | 340㎎ |
■カリウムの多い魚類(生・100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
さわら | 490㎎ |
タイ | 490㎎ |
めばちまぐろ赤身 | 440㎎ |
かつお | 430㎎ |
■カリウムの多い魚類(乾燥品・100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
さくらえび素干し | 1200㎎ |
カタクチイワシ煮干し | 1200㎎ |
するめいか | 1100㎎ |
かつお節 | 940㎎ |
肉類・魚類の中でも脂肪分の少ない赤身などの部位にカリウムが多い傾向があります。
ただし、腎臓病ではカリウム制限よりも先にたんぱく質制限が行われることが多く、たんぱく質を制限することで肉類・魚類由来のカリウム摂取量はさほど多くならないことが多いようです。
乳製品
乳製品にもカリウムが含まれ、摂取量によっては控えるべきとされる場合もあります。
■カリウムの多い乳製品(100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
低脂肪乳 | 190㎎ |
プレーンヨーグルト(全脂無糖) | 170㎎ |
普通牛乳 | 150㎎ |
牛乳やヨーグルトは毎日食べるという人も珍しくない食品なので、摂取する量・頻度には気を付けたいところです。
乳製品はたんぱく質の摂取源でもあるため、併せて注意する必要がありますね。
お茶・コーヒー・ジュース類
飲み物の一部にはカリウムが多く含まれていますが、ついつい忘れがちな食品といえます。
日常的に飲むものがある場合には、注意する必要があります。
■カリウムの多い飲み物(100gあたり)
食品名 | カリウム含有量(食品100gあたり) |
緑茶(玉露) | 340㎎ |
トマトジュース | 260㎎ |
野菜ミックスジュース | 230㎎ |
オレンジジュース | 180㎎ |
グレープフルーツジュース | 180㎎ |
パイナップルジュース | 210㎎ |
赤ワイン | 110㎎ |
コーヒー | 65㎎ |
黒ビール | 55㎎ |
野菜や果物を原料としたものは特に100%ストレートジュースなど、「素材そのもの」に近い飲み物ほどカリウムが多い傾向にあるため、避けるほうが良いでしょう。
カリウムを下げる調理のポイント
カリウムを下げるために、食事から摂取するカリウムを減らす必要があります。
カリウムを多く含む食品を控えることに加え、調理によって食品中に含まれるカリウムを減らしたり、カリウムを少なく抑えた市販品を使ったりすることで、カリウム摂取量を抑えることが可能です。
具体的には、以下のような方法があります。
- 水にさらす調理
- 茹でこぼす調理
- 低カリウムの市販品の活用
それぞれの内容について、詳しく解説します。
水にさらす
生で食べる食材は切ってから水にさらすことで食品中のカリウムが溶けだし、カリウムを減らすことができます。
具体的には、以下のようなものが当てはまります。
- 生野菜サラダ
- 生の果物類
- 調理前の下処理として
切り方にもよりますが、20分程度水にさらすことで、およそ2割程度のカリウムを減らすことができるといわれています。
きゅうりの薄切り・キャベツの千切りのように、断面が多くなるように切るとさらに効果的です。
茹でこぼす
加熱調理を行って食べる食材に関しては、水にさらすのではなくお湯で茹でてゆで汁を捨てる(茹でこぼす)ことでカリウムを流出させることができます。
具体的には以下のような調理操作・料理が当てはまります。
- 芋類の下茹で
- 葉物野菜やブロッコリーのゆで調理
- 冷しゃぶ(薄切り肉)
この方法では、生食できない芋類や、生状態での水さらしが適さない肉類にも有効で、20~30%のカリウムを減らせるといわれています。
この場合も、薄切りなど、表面積が大きくなる切り方にすると効果的です。
低カリウムの市販品を活用する
市販品の中には腎臓病の方向けに、カリウム量が配慮されたものも出回っています。
- 調味料(醤油、粉末だし、コンソメなど)
- レトルトごはん
- レトルト惣菜
- 冷凍宅配食
などがあり、負担なくカリウム摂取量を抑えるのに役立ちます。
これらの腎臓病向け食品はカリウムのほかにたんぱく質、ナトリウム、リンなどが配慮されているものが多いため、腎臓病がある人の食事全般に対して適した食品となっていますので、積極的に活用すると食事制限の負担を少なくできます。
まとめ
血液中のカリウムを下げるために食事中のカリウムを減らすことは腎臓病の食事療法で気を付けるべきポイントのひとつです。
腎臓病の方すべてに必要な食事制限ではありませんが、必要に応じて取り組みましょう。
野菜や果物を中心に、カリウムを多く含む食品を控えるほか、調理方法によってカリウムを減らしたり、低カリウムの市販品を活用したりするのがおすすめです。
腎臓病ではカリウム以外にもたんぱく質、ナトリウム(塩分)、リンなどの摂取量に注意する必要があります。
腎臓病の食事療法の全体を通して注意すべきポイントをまとめた記事もありますので、参考にしてくださいね。
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参考文献 日本腎臓学会:「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」 日本腎臓学会:「慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル 〜 栄養指導実践編 〜」 一般社団法人 日本腎臓学会:「医師・コメディカルのための慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル」 文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書 上西一弘. 食品成分最新ガイド 栄養素の通になる 第5版. 女子栄養大学出版部, 2022.8 |
監修医師
医院名 | NOBUヘルシーライフ内科クリニック |
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院長名 | 藤原 信治 |
資格 | ・医学博士 ・日本内科学会認定 総合内科専門医 ・日本糖尿病協会認定 療養専門医・指導医 ・日本腎臓病学会認定 腎臓指導医 ・日本透析医学会認定 透析専門医・指導医 ・日本循環器学会認定 循環器専門医 ・厚生労働省認定 難病指定医 |