「野菜の皮には栄養がたっぷりだから皮ごと食べたほうがいい」という話、聞いたことはありませんか?
「普段捨てている皮にこそ栄養が豊富」「皮をむいて食べるのは栄養を捨てている」といった話も耳にします。
野菜の皮をむいて食べるのと、皮をつけたまま食べるのとでは、どのくらい栄養素が異なるのでしょうか?
また、皮ごと食べることで体に悪い影響はないのでしょうか?
栄養面だけでなく衛生面や経済面からも考えてみましょう。
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Contents
皮むきと皮つきどっちの栄養価が高い?
文部科学省が作成している「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」では、一部の野菜について皮むき状態での栄養成分値と、皮をつけた状態での成分値を収載しています。
今回は、その中から「にんじん」「だいこん」「じゃがいも」「りんご」について、
皮むき状態での栄養成分値と皮つき状態での栄養成分値を比較してみます。
野菜100gごとの栄養価を比較
まずは、
皮をむいた状態で100gのもの
皮がついた状態で100gのもの
を比較してみます。
比較する成分はエネルギーと3大栄養素(たんぱく質・脂質・炭水化物)、野菜から摂取する機会の多い食物繊維、カリウム、ビタミンCです。
人参のみ、体内でビタミンA(レチノール)として働くβ-カロテンと、ビタミンAに換算した値(レチノール活性当量)を比較します。
にんじんの栄養素を比較
にんじん(皮むき) | にんじん(皮つき) | |
廃棄率 | 10% | 3% |
エネルギー | 36kcal | 39kcal |
水分 | 89.7g | 89.1g |
たんぱく質 | 0.8g | 0.7g |
脂質 | 0.1g | 0.2g |
炭水化物 | 8.7g | 9.3g |
食物繊維 | 2.4g | 2.8g |
カリウム | 270㎎ | 300㎎ |
β-カロテン | 6700㎍ | 6900㎍ |
レチノール 活性当量 |
690㎍ | 720㎍ |
ビタミンC | 6㎎ | 6㎎ |
*100gあたり |
※横スクロールで表全体の確認が可能です。
微妙な差ではありますが、ほとんどの栄養素で皮付きがやや多いようです。
炭水化物などの含有率が高くなるため、水分はやや少なくなるようで、「ほんの少し密度が高くなる」というような変化です。
大根の栄養素を比較
だいこん(皮むき) | だいこん(皮つき) | |
廃棄率 | 15% | 10% |
エネルギー | 18kcal | 18kcal |
水分 | 94.6g | 94.6g |
たんぱく質 | 0.4g | 0.5g |
脂質 | 0.1g | 0.1g |
炭水化物 | 4.1g | 4.1g |
食物繊維 | 1.3g | 1.4g |
カリウム | 230㎎ | 230㎎ |
ビタミンC | 11㎎ | 12㎎ |
*100gあたり |
※横スクロールで表全体の確認が可能です。
大根は人参に比べるとほとんど変わらないようです。
皮むきのほうがほんの少しだけ多い栄養素があります。
じゃがいもの栄養素を比較
じゃがいも(皮むき) | じゃがいも(皮つき) | |
廃棄率 | 6% | 0% |
エネルギー | 83kcal | 85kcal |
水分 | 78.0g | 77.6g |
たんぱく質 | 1.9g | 2.1g |
脂質 | 0.1g | 0.2g |
炭水化物 | 19.0g | 19.2g |
食物繊維 | 3.5g | 3.9g |
カリウム | 430㎎ | 430㎎ |
ビタミンC | 23㎎ | 13㎎ |
*100gあたり・電子レンジ調理後 |
※横スクロールで表全体の確認が可能です。
にんじんやだいこんと比較すると、皮と身の違いが分かりやすいじゃがいも。
皮つきと皮なしでは食感が大きく変わるもののひとつですが、栄養価としては食物繊維が少し増える程度にとどまるようです。
皮付きのほうがビタミンCが減る、という数値になっていますが、成分分析に使うサンプルの違いなどから起こる誤差の範囲と考えたほうがいいかもしれません。
りんごの栄養素を比較
りんご(皮むき) | りんご(皮つき) | |
廃棄率 | 15% | 8% |
エネルギー | 57kcal | 61kcal |
水分 | 84.1g | 83.1g |
たんぱく質 | 0.1g | 0.2g |
脂質 | 0.2g | 0.3g |
炭水化物 | 15.5g | 16.2g |
食物繊維 | 1.4g | 1.9g |
カリウム | 120㎎ | 120㎎ |
ビタミンC | 4㎎ | 6㎎ |
*100gあたり |
※横スクロールで表全体の確認が可能です。
りんごもじゃがいもと同様、身と皮の違いが分かりやすい食材です。
こちらも皮付きのほうが栄養素の密度がやや高く、ほんの少しではあるものの、栄養価が高いといえそうです。
皮つきのほうが水分が少なく栄養素密度がやや高い
4種類の食材について、皮むきと皮つきを比較すると、皮つきのほうが水分の含有量が少なく、各種栄養素の密度がわずかに上がるようです。
つまり、皮つきのほうがほんのわずかですが栄養価は高い、というのは間違っていないようです。
…とはいえ、その差はごくわずかで、世間で言われるほどの差はなさそうです。
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皮ごと食べることで摂れる栄養素の量は?その量に意味はある?
上では、皮むき状態で100gのものと皮つき状態で100gのものを比較しました。
しかし、実際には100gの野菜の皮を取り除いたら皮の分だけ食べるところは減るため、皮むきと皮つきを同じ量で比較するのは正確とは言えないかもしれません。
次は皮をむきとることで摂取できる栄養素にどのくらい差が出るのか、皮のみの栄養価が収載されていた人参について考えていきましょう。
人参1本でとれる栄養素の違いについて考えてみる
個体差はあるものの、人参1本の重さはおおよそ200g。
そのうち、皮つき・皮むきどちらにおいても食べないヘタ部分は3%、6g。
皮は全体の7%、14g。
残りの身の部分は90%、180gとします。
(ヘタと皮の割合は成分表の廃棄率から推定)
にんじん(皮むき) | にんじん(皮) | 全体における皮の栄養素の割合 (皮/(身+皮)) |
|
1本200gとしたとき | 180g(90%) | 14g(7%) | |
エネルギー | 65kcal | 4kcal | 6% |
水分 | 161.5g | 12.7g | 7% |
たんぱく質 | 1.4g | 0.1g | 7% |
脂質 | 0.2g | 0g | 0% |
炭水化物 | 15.7g | 1.0g | 6% |
食物繊維 | 4.3g | 0.5g | 10% |
カリウム | 490㎎ | 88㎎ | 15% |
β-カロテン | 12000㎍ | 940㎍ | 7% |
レチノール活性当量 | 1200㎍ | 100㎍ | 7% |
ビタミンC | 11㎎ | 1㎎ | 8% |
※横スクロールで表全体の確認が可能です。
皮に含まれる栄養素は身の1割前後
皮に含まれる栄養素は重量比とほぼ変わらず、7%程度のものが大部分を占めますが、食物繊維やカリウムは少し多めになっています。
皮をむかずに調理することで、1割前後の栄養素を余計にとることができそうですが、この差を多いとみるか、少ないとみるかは人によって意見の分かれるところになりそうです。
栄養価についてのまとめ
身に比べて皮に栄養素が多い、というのは細かく見れば正しいといえますが、その差はわずかで、「皮にこそ栄養が詰まっている」「皮には身の何倍もの栄養がある」とまでは言いにくいレベルです。
実際には、「皮にも身と同等程度(ものによっては少し多めに)含まれている」というくらいの認識がちょうどいいかもしれません。
皮むきした分食べられる量が少し減ることで、その分(10%程度)の栄養素をとる機会が減る、ということくらいのようです。
皮の有無とともに個体差があることも覚えておくと◎
皮の有無によってとれる栄養素が変わるということ以上に、食材の栄養価は「個体差が大きい」ことを知っておくといいかもしれません。
野菜や果物に含まれる栄養素は品種や収穫時期、産地の違い、収穫後の時間経過によっておこる成分の変化などの影響によって変動します。
同じ野菜でも色の濃いもののほうがβ-カロテンが豊富である場合や、
固く大きく育ったものは繊維質が多い、ということもあるでしょう。
食品成分表はあくまで目安であることを知っておくと柔軟に考えられそうですね。
皮つきで食べるメリットとは
栄養素を含め、皮つきで野菜を食べることのメリットをまとめてみました。
栄養価がわずかに高い
皮が身に比べて栄養素を特に多く含む、ということはなく、「皮にも栄養はある」程度が正しいようです。
皮むきと皮つきで分量が同じ重さであれば、摂取できる栄養素にほとんど違いはありません。
皮をむいたぶん、分量が減るのであれば、その分摂取栄養素も少なくなります。
可食部が増えてお得ということはある
栄養素にも通じるところではありますが、皮をむかずに食べることで、食べられる量(可食部)が増える、というメリットはあります。
1個の大きさが小さいものほど皮の割合が大きくなる(表面積が大きい)ため、小さめサイズのものを購入したときは皮むきをしないまま調理したほうが食べられる量は多いでしょう。
ただし、じゃがいもは要注意。
じゃがいもの芽や緑色になった皮にはソラニンという毒素が含まれていることがあり、摂取量によっては食中毒を起こす恐れがあります。
さらに、未熟な小さいじゃがいもはソラニンが増えやすく、皮が緑色でなくても皮の周辺は食べないほうが安心です。
ゴミ・フードロスが減る
皮をむかないということは、その分の生ごみが減るというメリットがあります。
野菜の皮が占める量はそう大きなものではないかもしれませんが、ごみの量が減ればゴミ袋が有料の地域の人にとっては節約になりますし、環境への負荷もわずかながら減ると考えることもできますね。
無駄なく食べるのはよいこと
結局のところ、皮をむかずに食べることの利点は栄養価もあるものの、「無駄なく食べる」「皮も食べたほうがもったいなくない」といったところが強そうです。
状況に応じて、気分良く食べられることが大事、とも言えそうです。
皮つきで体への悪影響はない?
一方で、野菜を皮つきで食べることに不安を感じる人もいるのではないでしょうか?
皮ごと食べることで起きる不安について考えてみましょう。
残留農薬の心配は?
野菜の皮をむかずに食べると栽培時に使った農薬が余分に体に入ってしまうのでは?と不安に思う人もいるのではないでしょうか?
結論から言えば、皮をむかずに食べたとしても、残留農薬が体に悪影響を及ぼす可能性はほとんどないようです。
残留農薬については、厚生労働省で基準値が定められており、必要に応じて検査が行われています。
通常皮をむいて食べることの多い野菜であっても、基本的には皮ごと検査にかけられますが、ほぼすべてが「基準値以下」となっています。
残留農薬については、様々な食材からごく微量が体内に入ることはあるものの、その量は生涯にわたって食べ続けても健康に影響しないとされる量(ADI)の1%にも満たないといわれています。
さらにいえば、ADIは動物実験などで健康に影響がみられなかった量にさらに安全係数(1/100~1/200)をかけたもの。
皮の有無にかかわらず、残留農薬についてはあまり気にする必要はなさそうです。
土などの汚れも含めしっかり水洗いをしよう
工場で栽培されている野菜もありますが、ほとんどの野菜は自然界で栽培されており、とれたては土がついています。
土には自然界に存在する様々な微生物が存在します。
その中には食中毒や感染症の原因となるものもいることが考えられます。
野菜によっては出荷前に洗浄されていることもありますが、土が残っていることも考えられます。
また、出荷から調理するまでの間でほこりや汚れに触れている可能性もあります。
感染症等のリスクを減らすためにも、皮つき・皮むきにかかわらず、調理前の水洗いはしっかりと行うのが望ましいでしょう。
最低限の衛生管理ができていれば問題なし
残留農薬は皮ごとの検査で基準値が設定されているため、皮つきであってもほとんど問題ないと考えましょう。
ただし、土壌由来の微生物や調理までに付着したものによる健康被害はないとは言い切れないため、調理する際にはしっかりと洗うようにしましょう。
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皮つきで食べるデメリットとは
健康への懸念もふくめ、野菜を皮ごと食べるデメリットについてまとめてみました。
安全性は心配なし
残留農薬については心配する必要はありません。
汚れや土壌由来の微生物を落とす目的での洗浄をしっかり行えば問題ないでしょう。
食べやすさが変わるかも
皮ごと食べることによって口当たりが変わることが考えられます。
人参くらいであればあまり気にならないかもしれませんが、大根はやや固く感じるかもしれません。
また、かむ力が弱い乳幼児には皮つきが食べにくいものもありそうです。
じゃがいもやリンゴのように身と皮の性質がはっきり異なるものに関しては、食べた時の食感に大きな違いが出てくるので、好みや食べる人の特性に応じて工夫が必要かもしれません。
見た目が劣る場合も
中身に比べると、皮は傷がついたりしやすい部分で、根菜ではひげ根のようなものが出ている場合もあります。
一方でリンゴのように皮つきのほうがきれいな赤色が見えて華やか、ということもあります。
皮つきのほうがきれいであれば問題ないのですが、食材の種類によっては、皮ごとは皮むきのものよりもやや見栄えしない、ということはありそうです。
どちらが正解、ということではなく、普段の食事には皮つきで、見た目を重視したいおもてなしの食事の時には皮むきで、といった臨機応変さも大事にしたいですね。
結論:皮の栄養は身とほぼ変わらない。好みやシーンに合わせて使い分けよう
今回、栄養価計算ができたのはにんじん・だいこん・じゃがいも・りんごのみでしたが、いずれも皮つきと皮むきの栄養価には大きな差はなく、「皮には身の何倍もの栄養が入っている」「皮を食べないと栄養素のほとんどを捨てている」とまでは言えないことが分かりました。
もちろん、皮をむかずに食べることで食べられる量も増え、その分栄養素もとることができ、ごみも少なく済む、というのは利点ではあります。
しかし、個人の好みや食事シーンを考えると、皮むきのほうがより適している場合もあります。
結局のところは「状況に応じて」その時にあった状態で野菜を味わうのがいちばんよい、といえそうです。
野菜の栄養と健康について別のテーマで解説した記事はこちら
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参考文献 文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 政府広報オンライン:「もったいない!食べられるのに捨てられる「食品ロス」を減らそう」 さいたま市 食の安全フォーラム スライド:「ほんとうの「食の安全」を考える」(畝山智香子) |