投稿日:2022.05.30 | 最終更新日:2021.04.21

ミルクは母乳より劣る?栄養価を比較すると…|管理栄養士執筆

粉ミルクだけでなくキューブタイプや液体ミルクなど、育児用ミルクにはいろいろ便利なバリエーションが存在します。

その一方で赤ちゃんの栄養源は母乳がいちばん、という風潮がありますが、ミルクをあげることは母乳に比べて劣る点があるのでしょうか?
母乳に比べてよくないものと思われがちな育児用ミルクを使うことについて、整理します。

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粉ミルク

ミルクと母乳の栄養面での違い

母乳は赤ちゃんに最適な成分組成であり、体への負担が少ないことが知られています。
いっぽうで、育児用ミルクは母乳の成分に近づけて作られたものであり、基本的な成分構成にはほとんど差はなく、現在使用されているミルクによって栄養素の欠乏や過剰はほとんどないと考えられます。

栄養素以外では、出産後間もなくの母乳は「初乳」と呼ばれ、免疫物質が含まれていることがミルクとの違いといえそうです。
また、お母さんがお酒を摂取した場合に母乳にもアルコールが移行してしまうなど、お母さんの食事やお薬の影響を受けやすい特徴もあります。
これに対して、育児用ミルクでは良くも悪くも成分の変動はないため、お母さんの食事や服薬の制限が必要ないというのも特徴でしょう。

栄養面以外でのメリット・デメリットは?

ミルクと母乳を比較するにあたって、比べるべきは栄養面だけではありません。

母乳のメリットは
・産後の母体の回復を促進する(子宮の回復、体重を早く戻す、生理再開を遅らせる)
・調乳や消毒が不要(完全母乳の場合)
・ミルク代が不要(完全母乳の場合)
・乳児突然死症候群の発症率の低下
・小児期の肥満やのちの2型糖尿病の発症リスクの低下
…などが挙げられます。

対して、ミルクのメリットは
・母親以外もあげることができる
・授乳量が把握しやすい
・乳頭損傷や乳腺炎などのトラブルがない(完全ミルクの場合)
…など、それぞれにメリットもあるため、一概にどちらがよいと決めるのは難しそうです。

ミルクをあげる男性

また、少し前までは母乳で育てると食物アレルギーになりにくいなどの説がありましたが、現在では否定されています。

公的にも「どちらでも大丈夫」が現在の考え方

厚生労働省では、授乳期のママ(・パパ・お世話をする人)に向けて、「授乳準備ガイド」「授乳スタートガイド」「授乳のギモン解消ガイド」といった授乳に関する情報提供を行っています。

・厚生労働省:妊娠したママのための「授乳準備ガイド」

・厚生労働省:もうすぐ出産するママのための「授乳スタートガイド」

・厚生労働省:産後2週間を過ぎたママのための「授乳のギモン解消ガイド」

いずれのリーフレットにおいても、赤ちゃんを育てるにあたって「母乳でも育児ミルクでもどちらでも大丈夫」とされており、どちらが最善である…といった表現はされていません。

医師や助産師、保健師、管理栄養士などの保健医療従事者向けの指針(授乳・離乳の支援ガイド)でも、母乳で育てたいと思っている人が実現できるように支援を行う、育児用ミルクを選択する場合にも十分な情報提供の上その決定を尊重する…とされており、どちらかを強制するような内容にはなっていません。

それぞれの状況によって希望通りになるとは限らない

ミルクか母乳か…という選択において、栄養面やそのほかのメリットやデメリットはありますが、必ずしも希望通りになるわけではありません。

平成27年度の乳幼児栄養調査における妊娠中のアンケート調査では、母乳で育てたいと回答した人が実際にはミルクのみの授乳になった場合も、ミルクで育てたいと回答した人が母乳のみの授乳になった場合もあったようです。

お母さんの疾患や感染症、服薬、子どもの状態、母乳の分泌状況など、単なるメリットやデメリットだけでは選ぶことができない要因がある場合もあるので、誰がどのような授乳方法をとっていたとしても、否定されるべきではないでしょう。

まとめ ミルクも母乳も「どちらも大丈夫」です

ミルクと母乳において、栄養面ではさほど大きな差はありません。
それぞれにメリットやデメリットがあり、それを理由に選ぶ場合も、やむを得ずどちらかを(多くはミルクを)選択する場合もどちらもあるでしょう。

ご家庭によって、その時々の状況によって、選択はそれぞれであり、どちらを選んでも問題はありません。
赤ちゃんや家族がより負担なく過ごすことができるほうを選ぶのがよいでしょう。

参考文献

厚生労働省:「授乳や離乳について」

厚生労働省:「授乳・離乳の支援ガイド(平成31年3月)」

厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書

平井 しおり管理栄養士
平井 しおり管理栄養士

2013年に管理栄養士資格取得後、保育施設に勤務、栄養相談などに従事。

現在は「イマカラ」にて、栄養とダイエットに関する科学的根拠に基づいた情報を発信しています。