投稿日:2022.05.16 | 最終更新日:2021.04.21

「健康にいい油」はある?正しい取り入れ方とは|管理栄養士執筆

近年は健康意識の高まりから、健康効果のある食品が注目されることが多くなってきました。

サラダ油やバターなどの「油」は一般的に高カロリーで肥満や病気につながるイメージがある一方で、健康的なイメージがついた油も次々に登場しています。

「健康にいい油」とはどのようなものでしょうか?
「健康にいい油」のはたらきと、実際の食生活での活用方法を紹介します。

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食用油

「健康にいい油」ってどういうこと?

そもそも、「健康にいい」とはどういうことを指すのでしょうか?

一般的な油(=トリグリセリド)はグリセリンと脂肪酸からできる物質です。

トリグリセリドの組成

このうち「脂肪酸」にはいくつもの種類があり、それぞれ体内でのはたらきや振る舞いが異なります。

脂肪酸の中でも、
・人体の生命維持に必ず必要な「必須栄養素」であるもの
・ほかの脂肪酸と比較して肥満や生活習慣病に対して予防的に働くもの
…のようなものに関しては、健康のために取りたい油=健康にいい油、ととらえることができそうです。

必須栄養素となる脂肪酸と多く含む油とは?

脂肪酸のうち、n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸とよばれるグループに属する脂肪酸は必須栄養素となる脂肪酸であり、「必須脂肪酸」とも呼ばれます。

n-3系脂肪酸は菜種油(キャノーラ油)や魚の脂身に、
n-6系脂肪酸は植物油全般に多く含まれているのが特徴です。

いずれも不足すると欠乏症による影響が考えられますが、通常の食生活を送る日本人において欠乏症はほとんど見受けられず、意識的に摂取量を増やす必要はないとされています。

「太りにくい油」はある?

現代において、肥満はさまざまな病気の原因になりうるものであり、健康管理の一環として体重コントロール、摂取エネルギーの管理を行っている人も少なくないのではないでしょうか。

カロリーが高いイメージの油において、「太りにくい油」があれば健康的といえそうですが、そのような油はあるのでしょうか?

■カロリーの低い油
残念ながら「カロリーの低い油」というものはないようです。
サラダ油やオリーブオイルといった生成された食用油は重さあたりのエネルギーにほとんど差はありません。(100gあたり880~890kcal)
油以外に水分などが含まれるバターやマーガリンでは重さあたりのエネルギーは15%ほど低くなるものの、体重管理に活用できるほどの違いではありません。

■体脂肪になりにくい油
「中鎖脂肪酸」を多く含む油はエネルギーの高低とは別に、体に脂肪がつきにくい油として知られています。

中鎖脂肪酸は通常の脂肪酸(長鎖脂肪酸)と代謝経路が異なることからエネルギーとして消費されやすく、普段の調理油(サラダ油など)と置き換えて使うことで体脂肪量の数値が低下したことが報告されています。

中鎖脂肪酸の代謝経路

中鎖脂肪酸は天然にはココナッツオイルに多く含まれるほか、人の手で中鎖脂肪酸の割合を高めたMCTオイルというものもあります。
「体に脂肪がつきにくい」とはいえ、摂取エネルギーが消費エネルギーに対して多すぎる状態ではやはり体脂肪として蓄積されてしまうことがわかっているため、「とればとるほど痩せる」というものではありません。
中鎖脂肪酸の活用に関しては摂取エネルギーの管理を踏まえつつ「ほかの油と置き換えて使う」ことが原則となります。

生活習慣病の予防にはたらく油?

食用油に含まれる脂肪酸の中には、血中のLDLコレステロール値に影響することがわかっているものもあります。

LDLコレステロールが血液中に増えすぎると、脂質異常症のひとつである高LDLコレステロール血症と診断されます。
脂質異常症に肥満や高血圧、糖尿病などが重なると、動脈硬化によって心筋梗塞などの命にもかかわる病気に発展するリスクが高まります。

食用油に含まれる脂肪酸のうち、
n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸などの「多価不飽和脂肪酸」は血中LDLコレステロール値を下げる方向に働くことが知られています。
いっぽう、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸は血中LDLコレステロール値を上げる方向に働くことが知られています。

脂肪酸ごとの違い

多価不飽和脂肪酸は植物油や魚油に比較的多く、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は肉の脂身や乳脂肪、マーガリンやショートニングに含まれており、それぞれ健康のためにしっかりとりたい油、摂取量を減らしたい油と考えることができそうです。

オリーブオイルと肉と魚・脂肪酸組成

まとめ 「健康的な油」どう取り入れる?

体に脂肪がつきにくい油、生活習慣病につながりにくい油というものはありますが、だからといって「少しでもとっていれば」「とればとるほど」体にいい…という訳ではありません。

基本的に脂質は食品の中でも重さあたりのエネルギーが大きく、とりすぎは摂取エネルギーの過剰からの肥満や脂質異常症の懸念から、脂質の摂取量は総摂取エネルギーの20~30%に収めること(1歳以上の場合)が目標とされています。

よって、健康的な油を取り入れるのであれば、サプリメント的に摂取するのは単に摂取量を増やすことになるため、望ましくありません。

適量範囲の中で「健康にいい油」の割合を増やし、そうでないものは減らす…という取り入れ方が理想的です。

食事全体においての油の適量を維持しながら、健康にプラスになる油を取り入れてみてくださいね。

参考文献

文部科学省:「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」

厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書

Kasai M, Nosaka N, Maki H, Negishi S, Aoyama T, Nakamura M, Suzuki Y, Tsuji H, Uto H, Okazaki M, Kondo K. Effect of dietary medium- and long-chain triacylglycerols (MLCT) on accumulation of body fat in healthy humans. Asia Pac J Clin Nutr. 2003;12(2):151-60.

青山 敏明.中鎖脂肪酸の栄養学的研究. オレオサイエンス3巻8号(2003)

平井 しおり管理栄養士
平井 しおり管理栄養士

2013年に管理栄養士資格取得後、保育施設に勤務、栄養相談などに従事。

現在は「イマカラ」にて、栄養とダイエットに関する科学的根拠に基づいた情報を発信しています。