
実は、生姜は体温を上げない
生姜を食べるとなんだかポカポカしてくる感覚がある…という人は少なくないのでは?
コンビニやスーパーなどでも、生姜を使った冷えの改善を目的とする飲み物・食べ物・サプリメントなどもよく見かけます。
体を温めるものとして、幅広く活用されている生姜ですが、実際に体温を上げる効果は期待できないようです。
冷え性気味の女性を対象に、生姜を食べた時の体温上昇を観察した研究では、脈拍数の増加は見られたものの、手や足の温度の上昇は見られなかったと報告されています。
そのほかでも、生姜と体温の上昇を示す研究報告はなく、現時点では生姜を食べても体温が上昇するとは言えないようです。
ポカポカするのは「味」?
でも、生姜の入った飲み物や食べ物を食べると、なんだかよりポカポカしてくる感覚があるという人は多いはず。
これは、体温の上昇とは別の働きで起こるものでした。
生姜には複数の辛み成分、ショウガオールやジンゲロールなどが含まれています。
生姜を食べると体が温かくなるように感じるのは、生姜に含まれるこの辛味成分(ショウガオールなど)が口の中の温かさを感じる受容体(TRPV1)を刺激するため。
実際には温度が高くなくても、温かさのセンサーが刺激されるため、温かくなったように感じるのです。
また、辛味成分と温感受容体とは別に、生姜の辛味成分が交感神経に働きかけて体温上昇に作用するともいわれていますが、実際に数値として現れるほど、その作用は強くないようです。
生姜を食べた時のポカポカ感はあくまで「感覚上だけのもの」。ポカポカする「味」と考えるのがよさそうです。
辛み成分と温受容体による音感は、実際の体温上昇にはつながらないものではありますが、寒い時期の食事の時により温かさを感じることに役立つと考えられますね。
「ポカポカ味」を強めるなら加熱したものがおすすめ?
生姜に含まれる辛味成分にはいくつかありますが、それぞれに異なる温度受容体を刺激することが分かっています。
ショウガオール:TRPV1温受容体を刺激するため、温かく感じる
ジンゲロール:TRPA1冷受容体を刺激するため、冷たく感じる
生の状態では冷たさを刺激するジンゲロールが多くなっていますが、30~60分の加熱を行うと、ジンゲロールが減少し、温かさを刺激するショウガオールの量が増えてくると報告されています。
温まりたい時には生姜を使った煮込み料理にすることで、より温かさを強く感じることができるかもしれませんね。
冷えが気になる…まずはしっかり食事、長期的には筋トレも効果的かも
寒い季節だけに限らず、冷えが気になるという人は少なくありません。
生姜など、温かさを感じる食べ物を活用するのも一つの方法ですが、体温そのものを上げてくれるわけではないため、根本的な解決にはなりにくいでしょう。
食事の場合、「エネルギーのあるもの」をしっかり食べることによっても体温を上げることができます。
食事に含まれる栄養素のうち、エネルギー源になるのはたんぱく質、炭水化物(糖質)、脂質です。
体温を生み出すためのエネルギー源としての栄養素としてももちろん重要ですが、これらの栄養素は食後、消化吸収の過程で一部を体熱の産生に消費することがわかっています。
たんぱく質は30%、糖質は6%、脂質は4%、これらが混ざり合った通常の食事では10%程度が食後の体温産生に使われます。
食後にポカポカしてくるという経験はないでしょうか?
生姜成分入りのサプリメント…などではなく、しっかりとエネルギーをとれる食事もとりたいですね。
冷えが気になる人で、サラダなどの低カロリーな食事が多いという場合には、ごはんやパン、メインのおかずなどのエネルギー源が含まれた食事をしっかりとる、というのも冷えの解消に役立つかもしれません。
また、より根本から考えると、体熱をつくる筋肉を増やすというのもいいのではないでしょうか。
ヒトの体の中で体温の産生を行っているのは内臓と筋肉です。
特に筋肉では、筋量・活動量が多いほどエネルギーを使って熱を産生するため、筋量が増えるほど基礎代謝が高く、体温産生が盛んになります。
内臓の活動を自分でコントロールすることはできませんが、筋肉ならトレーニングなどで増やすことができます。
毎年の冷えがつらいという人は、次の冬に備えて筋トレを始めるのもひとつの方法ですね。
まとめ
生姜に限らず、食べものが薬のように働くことはほぼありません。
すくなくとも、冷えの解消に関しては、生姜は温かい味の調味料と考えるのがいいでしょう。
体温の上昇には、食事や筋肉量も大事な要素です。
食事内容を見直したり、運動量を増やしたり、いろいろな面から取り組んでみてくださいね。
参考文献
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報(ショウガについて)
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